2026.03.29
第02回
アンゼルム・キーファー《ヴァニタス》 2019/20年(後編)
香川 檀 (武藏大学名誉教授)

Anselm Kiefer
Vanitas, 2019-2020
Emulsion, oil, acrylic, shellac, wood, and metal on canvas
280 x 190 cm
Copyright Anselm Kiefer, photo credit: Georges Poncet
キーファーが愛読したオーストリアの詩人インゲボルク・バッハマンの「壁のうしろで」という詩に、こんな一節があります。
わたしは 大きな世界不安の子だ、
それは平和と喜びのなかへぶら下がる
昼の歩みのなかにぶら下がる鐘の音のように
そして熟した畑のなかにぶら下がる大鎌のように。
わたしは 絶えず・死ぬことを・考えること だ。
(『インゲボルク・バッハマン全詩集』中村朝子訳、2011年、青土社、傍点は香川)
キーファーの《ヴァニタス》は、「熟した花畑」のなかに大鎌をぶら下げることで、花に死が迫っていることを警告しています。この絵が完成した2020年、世界はパンデミックの波に覆われました。同じ年に、もう一枚の絵画《メメント・モリ(死を想え)》も描かれ、やはり葉叢の画面に、本物の鎌と、切断された木の枝が貼り付けられています。美術史の伝統的な主題とモチーフを用いながら、現代の危機と共振する作品になっているのです。
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