2026.09.13
第11回
カトリン・リンケルスドルフ:枯れたチューリップと<はかなさ> (中編)
結城 円 (九州大学 芸術工学研究院 准教授)

Kathrin Linkersdorff ≪Fairies VII/ 1≫ 2023, © Kathrin Linkersdorff
リンケルスドルフは、そのキャリアをまず建築家として日本でスタートさせている。1993〜1995年までの2年間、DAAD(ドイツ学術交流会)の奨学金を受け、東京の建築事務所に勤務していた。その際に「侘び・寂び」の美学に深く感銘を受けた。彼女は「侘び・寂び」を、「無常や不完全さ、そして脆さをありのままに受け入れる美しさ」1 だと理解している。この美学を、枯れた花をモチーフに、写真を通して表現している。彼女にとって重要なのは、枯れゆく花を何週間、何ヶ月と観察しながら、花が乾燥し、朽ち果てていく過程を制御し、ある一瞬の状態を写真におさめることである。
このような時間性を表すのに最適な被写体として、彼女はチューリップを選んだ。チューリップの花びらは二層構造になっている。枯れて乾燥した花から色素を抽出すると透明になり、その「骨格」が露わになる。死を暗示するかのような花の骨格を、制作過程も含めた複雑な時間性の中で、繊細に写し取ることで、リンケルスドルフは「はかなさの中にある簡素さ、静けさ、そして美」2 としての侘び・寂びを表現している。
1 “Kathrin Linkersdorff Fairies”, in: European Photography, No. 111, Berlin: European Photography 2022, S.22
2 “Pigment ist für mich Ausdruck von Leben. Ingo Taubhorn und Brigitte Woischnik im Gespräch mit Kathrin Linkersdorff“, in: Ingo Taubhorn (Hg.), Kathrin Linkersdorff – Works, Stuttgart: Hartmann Books 2024, S.165
