Feature

2026.06.28

第08回
石内都――絹のシャボン玉 (前編)

マーレン・ゴツィック(福岡大学 人文学部 教授)

石内都『石内都:絹の夢』 青幻舎 2012年

 石内都は故郷・桐生市のコレクションに所蔵された数多くの銘仙着物、そして絹織物工場の内部や蚕の繭と生糸を撮影しました。「絹の夢」という2012年のシリーズです(図版:石内都、#5 + #6 併用絣銘仙 桐生2011、石内都『石内都:絹の夢』 青幻舎 2012年)。色彩豊かな着物のほとんどはクローズアップで撮影されています。着物の全体を写すことで着物を身に着けた女性の姿を想像しやすくなる一方、クローズアップは見る者の目を細部へと向かわせます――かつてその製作過程や、そこに関わった数多くの人々の生へと。

 銘仙着物は1920年代に人気の絶頂を迎えました。この頃、絹が国家輸出経済の半分程度を占め、多くの家庭が養蚕に従事していました。機械化による絹生産の飛躍的な拡大にともない、低品質の絹の割合も増加しまた。この低品質の絹が、銘仙着物に用いられたのです。着物の形を除けば、銘仙着物のすべてが新しいものでした。染色技術は革新的で、著名なデザイナーたちが次々と新しい柄や模様を生み出し、百貨店で既製服として購入が可能でした。銘仙の比較的低い価格と丈夫さは日常使いに適しており、多くの人々に手が届くものとなりました。銘仙は、大正デモクラシーの時代に勃興しつつあった都市中間層の若い女性たちの世代と結びつくことになりました。


ご利用規約

Copyright © VANITAS ART(ヴァニタス アート)